ぼくのメジャースプーン2025/05/14



「ぼくのメジャースプーン」 辻村 深月 講談社文庫
ぼくらを襲った事件はテレビのニュースよりもっとずっとどうしようもなくひどかった。ある日、学校で起きた陰惨な事件。ぼくの幼なじみ、ふみちゃんはショックのあまり心を閉ざし、言葉を失った。彼女のため、犯人に対し、ぼくができることがある。チャンスは一度だけ。これはぼくの闘いだ。
不思議な話だったけど、主人公は小学4年生の「ぼく」。幼いながら、キチンとした考えを持っていて、思慮深く真面目に頑張る姿に心打たれました。ふみちゃんも良い子。そんなふみちゃんが、もとに戻ってほしいと願います。主人公には特別な力があり、その力の使い方について、遠い親戚である秋山先生に教えを受けます。秋山先生のキャラクターも良かったです。押し付けず、考えを尊重してくれます。対決の日に向けて、毎日悩み、考えていきます。読者も何がベストなのか、主人公とともに考えさせられます。成長を見守る気持ちでした。気に入りました。

希望の糸2025/05/10



「希望の糸」 東野 圭吾 講談社文庫
喫茶店を営む女性が殺された。加賀と松宮が捜査しても被害者に関する手がかりは善人というだけ。彼女の不可解な行動を調べると、ある少女の存在が浮上する。一方、金沢で一人の男性が息を引き取ろうとしていた。彼の遺言書には意外な人物の名前があった。
加賀恭一郎シリーズ。シリーズ全部を読んでいるわけではないですが、ドラマや映画にもなっていて、加賀や松宮のことを知っているような気になります。今回の話は松宮が中心なので、溝端淳平さんを思い浮かべて読んでしまいます。いろいろな親子に関する物語でした。それぞれにドラマがあり、それらをうまく絡ませて、面白くまとめてしまう、やっぱり東野圭吾氏はすごいです。次が気になって、どんどん読み進みました。

凍りのくじら2025/05/02



「凍りのくじら」 辻村 深月 講談社文庫
藤子・F・不二雄を「先生」と呼び、その作品を愛する父が失踪して5年。高校生の理帆子は、夏の図書館で「写真を撮らせてほしい」と言う一人の青年に出会う。戸惑いつつも、他とは違う内面を見せていく理帆子。そして同じ頃に始まった不思議な警告。皆が愛する“道具”と理帆子の運命は。
ちょっと重いと言うか、ドロドロしたところもありました。理帆子の大変な状況や、元カレとの関係、いろいろありました。どれにもドラえもんの道具が関わっていて、藤子・F・不二雄先生をリスペクトしていました。おそらく、著者はファンなんでしょうね。出会いがあったり、単純な恋愛ものとは違って、うーむと唸る内容でした。そういう事だったのかぁと、思いました。

菓子屋横丁月光荘 丸窓2025/04/20



「菓子屋横丁月光荘 丸窓」 ほしお さなえ ハルキ文庫
大学時代のゼミの仲間たちと、隣町の農園を訪ねた守一。その晩は、友人田辺の祖父母の家に泊まり、自分と同じ家の声が聞こえる田辺の祖母と再会する。月光荘の管理人となって早1年。古い街並みに包まれ、人との繋がりを持った事で、このまま川越の地で働きたいと思うようになる……。
月光荘では、朗読会が行われる事になりました。月光荘の雰囲気が良いらしく、建物を生かした演出や出し物を一緒に相談します。川越の知り合いの人たちも、たくさん聞きに来てくれます。チラシを置いてもらったり、みんな協力的です。
月光荘とも会話を重ねて、仲良くなっていっていました。月光荘は守一の曽祖父の事も知っているかもしれないようで、友人の田辺さんの家といい、不思議な巡り合わせがあります。

菓子屋横丁月光荘 文鳥の宿2025/04/15



「菓子屋横丁月光荘 文鳥の宿」 ほしお さなえ ハルキ文庫
同じ造りの二軒の家の片方が焼失して十余年。残された家は川越の「町づくりの会」によって、昭和の生活を紹介する資料館として改修されることに。片付けのボランティアに参加した守人は、家の声の導きで、天袋に収められた七段飾りのお雛さまを見つける。しかしなぜか、三人官女のひとつが欠けていた。持ち主は誰なのか、人形はどうしたのか。家族の想いに寄りそっていく。雛人形に関しては、ちょっとミステリアスでした。守人はだんだん家の声を聞くだけじゃなく、会話もできるようになっています。そして、今回の巻では、初めて家の声を聞ける他の人に出会います。
川越でワークショップやボランティアなど手伝う事によって、人間関係が広がっていきます。小学生の友達までできています。主人公はおとなしく、あまり表に出ていくタイプではないけど、友人や大学の教授など、周囲の人々に恵まれています。川越の生活にも慣れてきて、川越に住み続けたいと思っているようでした。シリーズを続けて読み進めます。

菓子屋横丁月光倉庫 浮草の灯2025/04/11



「菓子屋横丁月光荘 浮草の灯」 ほしお さなえ ハルキ文庫
古民家で住みこみの管理人となって数ヶ月。家の声が聞こえる大学院生・守人は、月光荘の声に包まれて、穏やかな日々を過ごしている。川越の町にも慣れてきた。そんなある日、お気に入りの古書店「浮草」の店主が入院中だと知る、バイトの女子大生の安西は店主から、「浮草」を継いでほしいと言われ、思い悩んでいた。
川越の町の様子が良いです。行った事があるから、少しだけイメージできます。古民家の良さを活かして、現代にも合うお店がいろいろあるようです。主人公は家の声が聞こえることを秘密にしていますが、時々、声によって導かれていったり、助けになったりしています。月光荘とはだいぶ仲良くなって、会話までできてきました。他の古い家からも聞こえてきます。怖いというより、家の想いを感じとっています。続けてこのシリーズを読んでいきたいです。

お雑煮合戦 食堂のおばちゃん172025/04/07



「お雑煮合戦 食堂のおばちゃん17」 山口 恵以子 ハルキ文庫
姑の一子と嫁のニ三、手伝いの皐で三人仲良く営む佃の「はじめ食堂」はいつも常連客で大賑わい。ある日、見慣れない欧米系の男性が顔を覗かせた。サンドイッチのつばさが開店したり、忘年会で餅つき大会をしたり、故郷の雑煮話で盛り上がったり、美味しい料理と人情食堂、第17弾。
近所でひったくり事件が頻発。はじめ食堂のお客さんも遭遇します。英国人で近くに引っ越して来る事になるケンという男性が新しく常連さんになります。ケンのツテで、他の繋がりもできました。ケンは食通で、お酒にも詳しいです。どんどん人間関係が広がっていきます。早17巻、どこまで続くのだろうか。

月まで三キロ2025/04/05



「月まで三キロ」 伊与原 新 新潮文庫
「この先ににね、月に一番近い場所があるんですよ」。死に場所を探す男とタクシー運転手の、一夜のドラマ。ままならない人生を歩む人々の、一コマを優しく照らし出す6編の短編集。
短い話の中に、どの話も深い想いがありました。特徴はややマニアックな知識が詰まっている事です。天文、気象、科学など、知らない事がいっぱいあるけど、こちらは知識がなくても、すんなり読み進んでしまいました。話に繋がりはないですが、ハズレの話がなくて、すぐ忘れがちな短編でも、どれも印象深いです。好みは分かれるかもしれません。蘊蓄は多くても、結末はあまり書きすぎないかも。あえて余韻が残る話でした。
最近、直木賞を受賞した著者の前の作品です。

塞王の楯 下2025/03/29



「塞王の楯 下」 今村 翔吾 集英社文庫
太閤秀吉が病没した。押し寄せる大乱の気配。源斎は、最後の仕事だと言い残し、伏見城へ。代わって穴太衆・飛田屋の頭となった匡介は、京極高次から大津城の石垣の改修を任される。立ちはだかるは、彦九郎率いる国友衆と最新の鉄砲。関ヶ原前夜の大津城を舞台に、宿命の対決が幕を開ける。
石の聲を聴き、天才的な石垣を作る匡介は、想像を超える方法で、石垣を作り、鉄砲や他の攻撃に対応していきます。相手の出方を予想していきますが、それはお互い様です。ついには大筒を繰り出し、大きな被害が出ます。最強の楯と矛の行き着く結末はと、ハラハラしました。終わり方も、良かったです。まるで映画の様でした。
大津城の京極高次は、「のぼうの城」の成田長親に、ちょっと似ているなぁと思いました。

塞王の楯 上2025/03/20



「塞王の楯 上」 今村 翔吾 集英社文庫
時は戦国。炎に包まれた一乗谷で、幼き匡介は家族を喪い、運命の師と出会う。石垣職人“穴太衆”の頂点に君臨する塞王・飛田源斎。彼のように鉄壁の石垣を目指し、石工として腕を磨く。一方、鉄砲職人を率いる若き鬼才・国友彦九郎は、匡介をライバル視。秀吉没後に、大乱の気配、対決の時が迫る。
戦国時代の歴史小説は、数多くあるけど、武将ではなく、職人集団にも、戦いがあったのか、そこに焦点を当てるというのが素晴らしいです。中心となるのは石垣を造る人たち、鉄壁の石垣があれば、戦が途絶えるのではと考える匡介、一方、誰もが恐れる鉄砲により戦なき世を目指す彦九郎。正に矛盾の語源となった矛と盾のぶつかり合いが、これから始まるのだなぁと、続きは下巻で見届けようと思いました。
作者の今村翔吾さんは、よくテレビにも出ている方ですが、小説を読むのは初めてです。とても読みやすくわかりやすいです。日本のお城を好きな人も多いと思いますが、石垣がどのように造られていて、いろいろな技法があって、戦に使われていたのかと、興味深いですし、魅力的な人物がたくさん出てきます。