世界でいちばん透きとおった物語2024/03/13



「世界でいちばん透きとおった物語」 杉井 光 新潮文庫
大御所ミステリー作家が死去した。妻帯者ながら、複数の女性と交際し、そのうちの一人には子どもをなしていた。主人公はその子どもである僕。生前の父とは会った事もなかったのに、初めて会った正妻の息子から、親父が死ぬ間際までに書いていたらしい「世界でいちばん透きとおった物語」と言う小説の遺稿探しを手伝わされることに……。
ミステリー作家が遺したミステリーを追っていく話で、今までになり仕掛けがありました。最後まで読むとそう言う事かと、つい前を見返してしまいます。主人公と同じで、わからない事だらけで、父親がどういう人だったのか、何を書いたのか、どんな小説だったのかと、興味を惹かれました。一緒に探している気分になります。でも父親に良い印象がない主人公だから、否定的でした。

猫のお告げは樹の下で2024/03/07



「猫のお告げは樹の下で」 青山 美智子 宝島社文庫
神社で出会ったお尻に星のマークがついた猫が、葉っぱの「お告げ」を授けてくれる。悩める人々が、それによって発見や気づきがあり、新しい一歩を踏み出していく。
若い女性や中学生の娘を持つ父親など、立場が全く違う人たちが主人公となっていますが、みんな神社で猫からお告げをもらいます。同じ作者の「お探し物は図書室まで」によく似ている構成でした。むしろ原型のように感じました。「木曜日にはココアを」に出きた人も登場しました。悩んだり、落ち込んだり、うまく前に進めなくなっている時に、前を向かせてくれるほっこりする小説集でした。

52ヘルツのクジラたち2024/03/04



「52ヘルツのクジラたち」 町田 そのこ 中公文庫
52ヘルツのクジラとは、他のクジラか聞き取れない高い周波数で鳴く世界で一頭だけのクジラ。自分の人生を家族に搾取されてきた女性・貴湖(きこ)は事情により都会から風光明媚な大分県の海辺の町へ移り住む。そこで家族に虐待されている子どもに出会う。かつての自分が救われたように、その子を保護しようとするが……。 
映画が公開しているので、配役から想像してしまいました。貴湖の過去と、大分県での出会いや出来事が、並行して語られて、貴湖に起こった事がわかってきます。母が再婚して、子どもが生まれ、邪魔ものにされるだけでなく、悲惨な目にあっていました。その後も大変な人生でした。大切な出会いや別れを経験し、どうなっていくのかと思いました。面白かったです。

風と行く者2024/02/28



「風と行く者」 上橋 菜穂子 新潮文庫
つれあいの薬師師タンダと草市を訪れたバルサは、旅芸人サダン・タラムの一行を助け、旅の護衛を引き受ける事になる。20年前にも養父ジグロと護衛した事があり、当時の頭であるサリとジグロは深い関係にあった。サリの娘であるエオナが女頭となっているが、もしかしたらジグロの娘かもしれない。何者かに命を狙われているエオナたちと旅をすると、20年前の事が去来する。 
タンダと共に穏やか暮らしている様子が描かれるのかと思ったら、バルサの16才の頃の話が中心でした。その時の事とも狙われているのは繋がってはいました。
いつも食べ物が美味しそうで、全く知らないその国独自の食べ物でも、生き生きと描かれています。ドラマではジグロ役を吉川晃司さんが演じていたけど、本を読んでいるとピッタリに感じます。
今作は他の登場人物はあまり出てこなかったです。チャグムはどんな大人になっているか、知りたかったです。

クスノキの番人2024/02/20



「クスノキの番人」 東野 圭吾 実業之日本社文庫
不当な理由で解雇され、腹いせに罪を犯して逮捕された玲斗。そこへ弁護士が現れ、依頼人に従うなら釈放すると提案があった。心当たりはないが、話に乗り、依頼人の待つ場所へ向かうと伯母だという女性が待っていて玲斗に命令する。「あなたにしてもらいたいこと、それはクスノキの番人です」と。そのクスノキには不思議な言い伝えがあった。
東野圭吾の本はいつも読みやすく、夢中になって読んでしまいます。この話も面白かったです。苦労して生きてきた玲斗には、初めて知ることばかりです。知らない言葉もあるが、仕事をしながら学んでいきます。そもそもクスノキの番人がどういうものなのか、クスノキで何が起こるのか、興味深い内容でした。玲斗にも初めはわからないし、教えてもらえないので、一緒に探っていくような感じでした。ミステリーかもしれないけど、事件が起きたり、犯人がいるわけでなく、心温まる話でした。映画やドラマにしても良さそうです。

47都道府県女ひとりで行ってみよう2024/02/16



「47都道府県女ひとりで行ってみよう」 益田 ミリ 幻冬舎文庫
日本には47都道府県もあるのに、行ったことがない場所があるというのはもったいない。というわけで、全部行ってみることにした。毎月東京からフラッとひとり旅。マイペースで「ただ行ってみるだけ」の旅の記録。
気おわず、無理せず、自分の興味ある所だけ行っていました。どこも1泊程度、せっかく行くからあっちもこっちもではなく、名物料理もそれほど食べない、ちょうど良いかもしれません。自分だったら、もったいないから、出来るだけその土地特有の場所や、食事をとりたくなるかも。旅にそんなに行けないから、貧乏性が出てしまう。でも1人だったら、食事する場所に悩んでしまうし、何か買って行ってホテルの部屋でゆっくり食べるのも良いかもしれません。気張らないで行く旅の形を示してくれています。日本だけでも一生行かない場所もたくさんあるし、実際47都道府県を全部行くのは難しいですね。ひとり旅ではないけど、自分はいくつ行ったか数えてみたら、仕事や社員旅行で行ったところも合わせて27都道府県だった。まだ20もあるのか。行ってみたいものです。四国はどこも行った事ないです。九州は福岡と大分だけ。旅好きの人は、いろいろ行っている事でしょう。

先祖探偵2024/02/07



「先祖探偵」 新川 帆立 ハルキ文庫
邑楽風子は、親を知らず、天涯孤独の身。東京で先祖を専門に調査する探偵事務所を開いている。「曽祖父を探して」「先祖の祟りかもしれないから調べて」と様々な調査依頼が舞い込む。
若い女性で、いつもジーンズをはいている風子。自分の母を探しています。探偵もの、ハードボイルドでもあり、ミステリーでもありました。一匹狼よろしく、何でも1人でこなしています。仕事ぶりはさすがはプロで、どの様に探すかを心得ていました。戸籍に関して、勉強になります。探偵もの小説は多いけど、先祖や自分のルーツを調べるというのが、新鮮でした。調べる事で、真実が明るみになり、問題を解決していきます。面白かったです。

いつもの木曜日2024/02/04



「いつもの木曜日」 青山 美智子 宝島社
「木曜日にはココアを」のスピンオフ本です。文庫本よりちょっと大きめで、小さい絵本のよう。「木曜日にはココアを」と「月曜日の抹茶カフェ」の表紙写真を担当しているミニチュア写真家・見立て作家の田中達也さんとのコラボです。内容は「木曜日にはココアを」に出てくる人の、前日譚みたいになっています。人物別に紹介されていました。「マーブル・カフェ」の雇われ店長のワタルくんが好きです。すぐに読み終わってしまいましたが、面白かったです。

月曜日の抹茶カフェ2024/02/03



「月曜日の抹茶カフェ」 青山 美智子 双葉文庫
桜並木のそばに佇む「マーブル・カフェ」では定休日の月曜日に「抹茶カフェ」が開かれていた。ツイてない携帯ショップ店員、茶問屋の若旦那、紙芝居師、京都老舗和菓子屋の元女将……。
「木曜日にはココアを」の続編。マーブル・カフェが中心かと思えば、今回もそうではなく、次々と不思議な縁で繋がっていきます。前作ではオーストラリアが出てきましたが、今作は京都と東京が繋がっています。前に出ていた登場人物も出てきましたが、また新しい人がたくさん出てきました。人だけじゃなく、猫も語り手になっていました。軽いタッチで明るい話が多いけど、時々グッときました。良い教えが多くて、学びになります。

はぐれ又兵衛例繰控五2024/02/02



「はぐれ又兵衛例繰控五 死してなお」 坂岡 真 双葉文庫
又兵衛の義父、都築主税自慢の銘刀が、殺された札差の亡骸のそばで見つかった。又兵衛が知らないうちに、元配下のものに譲っていたらしい。義父はまだら惚けで、正気の時もある。義父に疑いがかかってはいけないので、又兵衛は元配下の行方を追うが……。
又兵衛の頼れる相棒は、幼なじみの長元坊、料理が上手なようですが、戦うのもかなり強いようです。多勢がかかってきても、蹴散らして行きます。おかげで、又兵衛は集中して強敵と対戦できます。いつも危機的状況が、降りかかってきます。この時代は疑いがかかれば、真実でなくても、切腹やら、失職してしまう事が多いから、ハラハラします。又兵衛の活躍で事件は解決しますが、表には立たず、人知れず正義を追い求めています。今作も面白かったです。