たゆたえども沈まず2020/08/05


たゆたえども沈まず

「たゆたえども沈まず」 原田 マハ・著 幻冬舎文庫
19世紀後半、栄華を極めるパリの美術界。画商・林忠正は助手の重吉と共に流暢な仏語で浮世絵を売り込んでいた。野心溢れる彼らの前に現れたのは日本に憧れる無名画家ゴッホと、兄を献身的に支える画商のテオ。親交を深めていくが、孤高の画家ゴッホには大きな苦悩があった……。
ゴッホの弟テオと、実在の人物ではない重吉が語り手となっています。この時代のパリでの、浮世絵ブームや、印象派の画家たち評価など、とても興味深く、面白かったです。実話とフィクションが織り交ぜてあります。実際、謎も多いゴッホの生涯(特に最期)ですし、こういう事があったのではないかと思いました。
テオも兄との関係に苦悩していたのがヒシヒシと伝わってきました。
ゴッホの絵が好きな人が読むとより楽しいかもしれません。絵の描かれた背景もわかって、絵の見方が変わりそうです。ゴッホの映画も多いですが、また違った観点で見ているように思います。本の構成も良かったし、タイトルも合っています。浮世絵が、海外の美術館に多く所蔵されているのは、こういう事だったのかとも思いました。

無花果の実のなるころに2020/08/01


無花果の実のなるころに

「無花果の実のなるころに」 西條 奈加・著 創元推理文庫
もと芸者で粋なお蔦さんと一緒に神楽坂で暮らす孫の僕。面倒くさがりのお蔦さんではあるけど、何かと人に頼られる。ご近所の振込詐欺被害や、僕の友人関係の事件など、周囲で起こる事件を解決していく……。
ご近所ミステリーというか、最近こういうのは多いような気がしますが、場所が神楽坂というのが良いです。人情味があります。お料理をしないお蔦さんの為に、主人公の僕(ノゾム)が食事の準備をしています。おいしそうです。お菓子作りにも挑戦しています。自分のおばあちゃんなのに、お蔦さんと呼んでいます。誰もが一目置くようなお蔦さんです。
陰湿な大事件は起きないし、短編連作で軽く読むのにちょうど良いです。まだ話は続いているようです。西條奈加は時代小説をいろいろ書いているのですが、現代ものは初めて読みました。

為吉 北奉行所ものがたり2020/07/23


為吉

「為吉 北奉行所ものがたり」 宇江佐 真理・著 実業之日本社文庫
為吉は幼いころ呉服屋の跡取り息子だったが、両親を押し込み強盗に殺されていた。その後、北町奉行所付きの中間となっていたが、両親を殺した盗賊集団の首領が捕まったとの知らせが届く。その首領の発したひと言は為吉の心に大きな波紋を広げて…。
北奉行所に関わる人たちが主人公の短編でしたが、為吉は初めの話と、他にも出てきて、最後にまた為吉が主人公の話でした。
宇江佐真理さんのエッセイも収録されていて、病気がわかって、内容をまとめたようです。本当は北町奉行所のいろいろな話でシリーズになっていく予定だったのだと思います。為吉以外の人々の話も面白かったです。

NO.6 beyond2020/07/16



「NO.6 beyond」 あさの あつこ・著 講談社文庫
NO.6崩壊後にNO.6に留まった紫苑。さすらうネズミ。紫苑の父の秘密。
完結した物語のその後のことや、過去の話。
4つの短編になっていて、イヌカシがネズミに出会ったいきさつや、ネズミの過去、NO.6崩壊後の紫苑やネズミの話でした。
その後、どうなったのかと思っていたけど、おそらく読者が望むような感じではなかったけど、9冊の話を肉付けするような内容でした。謎が少し解けて、それぞれに過ごしている様子を知ることができました。でも、続けようと思えば、まだ話はできそうです。穏やかな内容とも思えるので、ホッとしました。

NO.6#92020/07/14



「NO.6 #9」 あさの あつこ・著 講談社文庫
炎に包まれた矯正施設から、命がけの脱出を成功させた紫苑とネズミ。仲間の力を借り、怪我をしたネズミを病院に運んだ紫苑は、かつて地下世界の住人・老から託されたチップを医師のパソコンに差し込んだ。理想都市NO.6の歴史と真実がわかる。紫苑はなすべき行動に出る……。
いよいよ9冊目で最終章でした。結末がわかって満足しました。長い経緯がありましたけど、必要な事でもあったのだと思います。しかし、最後の方はあっさりしていました。再会など詳しく書いてもらいたいこともありました。長いけれど、あっという間に読めてしまいます。映像を想像して楽しめるので、アニメにはなっているけど、外国で映画にしてくれたら良さそうでした。
その後に1冊出ているので、そちらも読もうと思います。

おらおらでひとりいぐも2020/07/11


おらおらでひとりいぐも

「おらおらでひとりいぐも」 若竹 千佐子・著 河出書房新社
74歳、ひとり暮らしの桃子さん。24歳の時に東北から上京。 東京オリンピックの年に身ひとつで上野駅に降り立ってから50年。住み込みのアルバイト、周造との出会いと結婚、二児の誕生と成長、そして夫の死。 「この先一人でどやって暮らす。こまったぁどうすんべぇ」 40年来住み慣れた都市近郊の新興住宅で、ひとり茶をすすり、ねずみの音に耳をすませるうちに、桃子さんの内から外から、声がジャズのセッションのように湧きあがる。 捨てた故郷、疎遠になった息子と娘、そして亡き夫への愛。
芥川賞受賞作。
故郷から離れて暮らしているのに、夫亡きあと、故郷の言葉が頭の中に湧き上がって思考しているようです。これは岩手弁と思いますが、独特だけど、意味はなんとなくわかり、とても良い味わいがあります。
タイトルはおらは自分(私)だから、私は私でひとで行く的な意味だと思います。先日読んだ「銀河鉄道の父」で、宮沢賢治のことが気になっていたですが、この言葉は賢治の詩「永訣の朝」にも出てくるのです。それも、ローマ字で書かれています。だから、宮沢賢治と関係があるのかなとも思ったのですが、そうでもないようです。永訣の朝は亡くなりゆく妹の言葉なのかな、この本ではひとりで強く生きていくということかもしれません。
そして映画が公開します。沖田修一監督、面白いので、どんなに感じの映画なのかと、手に取ってみました。映画よりも先に原作を読む派です。
しかし、読んでみても映画化はどういう方向になるのかと想像しにくい内容でした。だから、余計にどういう風になるのかと見たくなりました。2020年秋に公開するそうです。田中裕子さん主演で、若い頃の回想シーンがあるので、そこは蒼井優さんが演じるそうです。主人公桃子さんの人生を振り返り、現在の心境を整理していくような気もしましたけど、ちょっとボケってきていないかと妄想か、何なのか、老いとはどういうものかと考えさせられます。

NO.6#82020/07/09



「NO.6 #8」 あさの あつこ・著 講談社文庫
矯正施設に侵入し、ついに沙布との再会を果たした紫苑とネズミ。邂逅の喜びもつかの間、沙布の身に起きた異変に愕然とする。施設の心臓部に仕掛けた爆弾は大爆発を起こしたが、燃え上がる炎は二人の逃走を阻み、ネズミは深い傷を負った。無事に脱出することはできるのか……。
矯正施設の話が中心ですが、都市の中でも事件は起こっています。その対応に怒った市民たちも、政治の中心部に詰め寄って行くのですが、武力で抑えられていきます。内部から崩れゆく感じはしますが、結末まであと少し。
中国や香港を思わせます。謎の病気(?)で、死者が増えていくと、市民たちが発起するのです。しかし、軍隊が出動するというように。もちろん全然違う話なんですが。この病気というか、なんというかこの話の中では、無差別にいきなり人が亡くなっていくのですが、止めることができるのでしょうか。これもコロナウイルスを思い起こしてしまいました。今の状況から、勝手にいろいろ結び付けてしまいます。

うめ婆行状記2020/07/07


うめ婆行状記

「うめ婆行状記」 宇江佐 真理・著 朝日文庫
北町奉行同心の夫を亡くしたうめは、堅苦しい武家の生活から抜け出して独り暮らしを始める。気ままな独身生活を楽しもうと考えていた矢先、甥っ子の隠し子騒動に巻き込まれ、ひと肌脱ぐことを決意決意するが…。
作者・宇江佐真理の遺作だそうです。途中まででも十分面白いのですが、どういう結末にしようとしていたのか、知りたいです。いろいろ想像します。
主人公のうめは、孫もいる年齢ですが、現在ならまだまだ若いです。でも、簡単には気楽に生きられないものです。家族がいるのに一人暮らしをさせては、息子の対面が悪いとか、初めの方はモメていました。
登場人物が多いので、混乱しますが、家系図が書いてあるので、参考になりました。家族親戚のそれぞれに事情や関係性があります。現代もそうですね。

NO.6#72020/07/04



「NO.6 #7」 あさの あつこ・著 講談社文庫
要塞化している矯正施設へ潜り込んだ紫苑とネズミ。高度なセキュリティシステムをくぐり、兵士と闘いながら最上階へ駆け上がる。最上階にはNO.6を支配するマザーコンピューターと、沙布が捕らわれている部屋があるはず……。
弱そうな紫苑が実は強い精神の持ち主であるころがわかります。命の危機に瀕していても落ちついていて、信念に沿って行動していきます。それは、周囲の人たちを動かしてもいきます。
NO.6内部でも不穏な事件が多発していきます。あまり詳しい説明がないのと、最後のところが、気になる終わり方でした。結局最終巻まで読まないといろいろな謎や、恐らく良い結末は楽しめないだと思いました。近いうちに続きを読みたいと思います。

銀河鉄道の父2020/06/29


銀河鉄道の父

「銀河鉄道の父」 門井 慶喜・著 講談社文庫
明治29年(1896年)、岩手県花巻に生まれた宮沢賢治は、昭和8年(1933年)に亡くなるまで、主に東京と花巻を行き来しながら多数の詩や童話を創作した。
賢治の生家は祖父の代から富裕な質屋であり、長男である彼は本来なら家を継ぐ立場だが、賢治は学問の道を進み、後には教師や技師として地元に貢献しながら、創作に情熱を注ぎ続けた。
地元の名士であり、熱心な浄土真宗信者でもあった賢治の父・政次郎は、いかに息子を育て上げたのか。
父の信念とは異なる信仰への目覚めや最愛の妹トシとの死別など、決して長くはないが紆余曲折に満ちた宮沢賢治の生涯を、父・政次郎の視点から描く。
「銀河鉄道の夜」や「雨ニモマケズ」など、誰もが知る詩や童話を描いた宮沢賢治ですが、どのような生涯だったのかがわかる本でした。
「永訣の詩」で妹との別れを描いていますけど、勝手にもっと小さな女の子だと思っていました。24歳で亡くなってしまう愛する妹、この2人の間には特別な絆があって、理解しあっていたのだと感じます。童話を書くようにすすめるのも妹のトシでした。
父親は思い通りにならない息子だけど、愛情があふれているのがわかります。賢治の側からも期待に応えられない葛藤があったでしょう。
生きているうちは、それほど世間に知られた人でもなかったようで、ちょっとゴッホを思い出しました。とても興味深い内容でした。
直木賞受賞作です。