もどかしいほど静かなオルゴール店 ― 2024/11/22
「もどかしいほど静かなオルゴール店」 瀧羽 麻子 幻冬舎文庫
珊瑚礁の島にある、通称「ガジュマルの店」。ここではお客様の心にある音楽が聞こえる店主が、あなただけのオルゴールを仕立ててくれる。初恋の人を想い続ける郵便屋さん、音楽を捨てたミュージシャン、島の神様と話せるババ様。それぞれの心に流れていた“音”が、大切な記憶を呼び起こす。
「ありえないほどうるさいオルゴール店」の続編です。前作は北海道を思わせる北の地方だったけど、今度は南の島。7つの短編の中にはちょっとだけ繋がりがありますし、1冊目の話にも繋がりがありました。最後にはかなり年月も過ぎていました。お店が移転した理由も、わかりました。出てくる人は、もともとの島民ではなく、引っ越しして来たり、旅行で訪れたりしている人が多いです。中には結婚をきっかけに、北欧の国からお嫁に来た女性もいました。辛い想いを抱えてやってきて、やがて癒されるきっかけとなる事もありました。自然が豊かで、島での生活が素敵そうです。人を癒す島に思えました。
花屋さんが言うことには ― 2024/11/16
「花屋さんが言うことには」 山本 幸久 ポプラ文庫
ブラック企業で身も心も疲れ果てていた紀久子が働き始めたのは、駅前の小さな花屋さん。花を求めるお客さんの事情はさまざま。楽しいだけではなく、切ない花もある。花を届けていくうちに、紀久子は、押し込めていた自分の夢にもう一度向き合い始める。
冒頭に主人公・紀久子がひどい会社を辞めようとしているのだが、本当にひどいブラック企業で驚きました。そんな時に出会ったのが、花屋の店主・季多さん。ちょっと豪快な女性でした。紀久子を救い出してくれて、初めの方から、この本、面白い!と思いました。花屋の同僚たちや、常連さんたち、花屋を中心にその周辺の人々の引きこもごも。先日観た映画「DOG DAYS」にも似た設定です。近所のお華の先生家族や、まだ幼いのに、すごく花に詳しい男の子など、アルバイトしながら、多くの出会いがありました。花言葉もたくさん出てきますが、古典からの言葉も勉強になります。すぐ忘れちゃうけど。面白くて、読み終わるのが、惜しい気がしました。
ありえないほどうるさいオルゴール店 ― 2024/11/01
「ありえないほどうるさいオルゴール店」 瀧羽 麻子 幻冬舎文庫
北の町の小さなオルゴール店、お客様のためのオリジナルのオルゴールを作ってくれる。心に流れている音楽で作ることもできますと風変わりな店主は言います。耳の聞こえない少年。夢をあきらめたバンドの少女たち、妻が倒れ、途方に暮れる老人など。オルゴールによって、救われたり、ホッとしたりする7編の短編。
1つ目の話を読んだ時は、どういう事か?と思ったのですが、読み進んで行くと、教えていないのに、心の中の音楽が聞こえるらしいです。ささやかな人々の生活の中で、ふと入ったオルゴール店で、不思議な体験をするお話でした。お向かいには、美味しいコーヒーの喫茶店があります。それぞれの人が、特別な音楽を受け取る事ができ、それによってちょっとした変化がありました。激しい展開はないけど、しみじみしました。
影法師 ― 2024/10/28
「影法師」 百田 尚樹 講談社文庫
頭脳明晰で剣の達人。将来を嘱望された男がなぜ不遇の死を遂げたのか。下級武士から筆頭家老までに上り詰めた勘一は竹馬の友、彦四郎の行方を追っていた。二人の運命を変えた二十年前の事件、その真相とは。
この時代の身分制の不条理を感じつつ、高尚な考え、人間は今は減ってしまったように感じました。彦四郎の生き方には、驚嘆します。尊いけど、誰にも真似できないです。勘一は下級武士でありながら、たゆまぬ努力や、真面目な働きぶりで、運命が開かれていくのですが、逆に優秀な彦四郎は、不遇な待遇になっていきます。しかし、変わらぬ友情は続いていて、お互いを思いやってていたのだと思います。全ての謎が明らかになった時は、思わず涙が溢れ出す話でした。
手紙屋 ― 2024/10/25
「手紙屋」 喜多川 泰 ディスカバー・トゥエンティワン
就職活動に出遅れ、将来を思い悩む「僕」は、とある店で、10通の手紙をやりとりすれば、夢に近づくと言う「手紙屋」を知る。半信半疑ながら、手紙を書いてみると、いろいろなアドバイスを受け、親しい交流が始まる。手紙屋の正体とは。
これから、就職をしようとする人たちには、役に立つし、これからどんな心構えでいったら良いかと、参考になります。若くない人にも良いと思います。手紙でのやり取りというのも、興味深かったです。でも、だんだん小説を読んでいるというよりも、自己啓発本のような感じがしてきました。
実は、拙者は。 ― 2024/10/20
「実は、拙者は。」 白蔵 盈太 双葉文庫
深川佐賀町の裏店に住まう棒手振りの八五郎は、平凡かつ地味な男。人並み外れた影の薄さが悩みの種だが、独り身ゆえの気楽な貧乏暮らしを謳歌している。そんな八五郎は、ある日、裕福そうな侍を襲う「鳴かせの一柳斎」と呼ばれている謎の剣士の現場に出くわす。物陰から見ていた八五郎は、江戸市中を騒がす一柳斎の正体が、隣りの部屋に住む浪人の雲井源次郎だと気づく。
実はと言う人たちが、八五郎の周りにいっぱいいて、その影の薄さゆえに、気づかれないまま、たくさんの秘密を知ってしまいます。仲良く酒を酌み交わす友人たちに、裏の顔があります。こうなると、命の危機を感じるものだけど、この小説は軽快で、笑える楽しい話でした。ありえないほど、数珠つなぎ状態で、出るわ出るわで、びっくりです。時代小説の中でも、珍しいタイプの話でした。実写化しても面白いかもしれません。
いもうと ― 2024/10/13
「いもうと」 赤川 次郎 新潮文庫
大好きな姉・千津子に続いて母も亡くし、父は別の家庭へ。高校を出て就職し、中堅社員として働く実加の前に、見知らぬ女の子が現れる。社の一大プロジェクトを任される事になり、周囲に助けられながら奮闘する。
映画にもなった「ふたり」から、ずいぶん経ってからの続編。11年後の設定で、27歳とお年頃になっています。でも、恋愛はなかなかうまくいかず。出てくる男性は、みんな女ったらしと言うくらいに、しょうがない人が多かったです。前作が亡くなった姉の声が聞こえるという、ファンタジックなところがあったけど、今作は東京に暮らし、厳しい現実に対峙する話。良い事もあるけど、辛い事も多いです。家を出ていった父に、わだかまりを持ち続けるよりも、許す事で違う未来も広がっていくと思えました。実加は人が良いので、頼まれると嫌と言えないのか、面倒に巻き込まれていました。
さち子のお助けごはん ― 2024/10/11
「さち子のお助けごはん」 山口 恵以子 潮文庫
出張料理人のさち子は、依頼者の悩みを料理で解決していく。大御所小説家を喜ばせた意外なレシピ、依頼者の老いた母を元気にしたスープなど。さち子は老舗料亭の一人娘だったが、花板だった父の急死によって、運命が変わっていた……。
食堂のおばちゃんシリーズの作者。手早くささっと料理をして、お客さまも大満足しています。依頼者へも的確にアドバイス。押し付けがましくもなく、常に心に寄り添って、心のこもった料理を作っています。基本はいろいろな家に行って、仕事をこなしていくのですが、少しずつさち子が出張料理人になる前の出来事や、家族関係が、わかっていきます。作者を思わす人物も、お客さんとして出てきました。サラリと読めて良かったです。
子宝船 きたきた捕物帖二 ― 2024/10/05
「子宝船 きたきた捕物帖二」 宮部 みゆき PHP文芸文庫
持つ者は子宝に恵まれると噂の宝船の絵。しかし赤子を失ったある家の宝船の絵から弁財天が消えたという。時を置かずして弁当屋一家3人が殺される。江戸深川の富勘長屋に住む岡っ引き見習いの北一は、与力の命を受け、事件の真相に迫っていく……。まだ未熟な北一が、相棒・喜多次な力を借りながら、不可解な出来事を解き明かしていく。シリーズ第2弾。
ちょっと間があいてしまって、人間関係を思い出しながら、読みました。同じ作者の他の作品からも、登場する人物があり、読んでなくても、問題はないけど、ファンの人には嬉しいですね。「桜ほうさら」と「ぼんくら」の登場人物が出てきます。特に「ぼんくら」で印象深い政五郎親分と、なんでも記憶している“おでこ”は、こちらの本でも活躍します。その後の事がわかります。1巻目に登場した人物たちの事も、ちょっとずつ謎が解き明かされいきます。それでも、まだ謎のままですが、北一の本業は、文庫売り、その文庫に絵を描いてくれるお屋敷に住む“若”。喜多次もまだ謎多き人物です。亡くなった千吉親分の奥さんなど、気弱でまだ未熟な北一は周囲の人に助けられて、成長していくストーリー。江戸で起こる事件や怪異を調べるミステリー要素も高い、人情ものでした。この時代は冤罪も多いだろうし、人に恨みを買ったり、どこで事件に巻き込まれていくかわからず、大変だなぁと思いました。でも面白かったです。
幸せのカツサンド 食堂のおばちゃん16 ― 2024/09/28
「幸せのカツサンド 食堂のおばちゃん16」 山口 恵以子 ハルキ文庫
鶏の唐揚げ、ホッケの干物、海老フライなどなど、姑の一子と嫁の二三に手伝いの皐で営む佃の「はじめ食堂」は、常連客でいつも賑わっている。そんな中、若手人気女優が数年ぶりに来店し、一子に悩みを打ち明けてくる。迷子のおばあちゃんを助けたり、隅田川花火大会の日には、寿司を楽しんだり。新たな命の誕生もある。美味しいごはんと、人情食堂。
魚市場の仕組みがちょっとわかりました。仲卸って、そういう事か。寿司ネタを専門に準備してくれる店もあるのか等。巣鴨の事もわかりました。何度か行っているけど、実在の場所や店も出てくるのが、参考になります。出てくる料理のレシピも付いているので、料理も作ったら、更に良いのだと思います。私の場合は「はじめ食堂」が職場の近くにあったらなぁ、それが一番良いですね。
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