その男(一) ― 2023/09/16

「その男(一)」池波 正太郎・著 文春文庫
旗本の嫡男として生まれた杉虎之助は生来の病弱に加え義母に疎まれていた。我が身を憂い身投げしたところ謎の剣士・池本茂兵衛に助けられる。虎之助は、池本の弟子になることを決意し修行の旅に出る……。
全3巻のうちの1冊目、久しぶりに池波正太郎の本を読んでいます。読みやすいのです。生まれてすぐに母親が亡くなり、体が弱かった主人公、虎之助。義母に息子も生まれ、家にもいずらくなるという辛い立場だったのだが、信頼できる師と出会った事で、人生が変わっていきます。師のもとで、健康になって、剣術修行をし、6年で別人のようになります。実家とは縁遠くなったけど、叔父は可愛がってくれたし、恩師に大切にされて、働かなくても、生活に困らないのです。激動の時代を背景に、虎之助がどうなっていくのか、これから続きを読んでいきます。過去の話を後の虎之助や、他の人が語っているところがあって、独特です。
昭和の焼きめし 食堂のおばちゃん14 ― 2023/09/13

「昭和の焼きめし 食堂のおばちゃん14」 山口 恵以子・著 ハルキ文庫
コロッケ、タンメン、焼きめし。姑の一子と嫁の二三、手伝いの皐の3人で仲良く営む「はじめ食堂」。気取らないおいしい料理と人情味あふれる明るい食堂。近所の焼き鳥屋さんが閉まって、新しくラーメン屋がオープン。ライバルというより、協力体制で、応援するが、何かと騒動が起こり……。
新しい本が出て、ちょっと久しぶりにこのシリーズが読めて、嬉しいです。またはじめ食堂の面々と会える気分です。美味しそうなものがいっぱい出てきて、楽しい人間関係に浸れます。変化があったり、久しぶりに出てくる人もいます。シリーズも長いので登場人物が多いのに、みな良い人たちで、個性があり、全く混乱しないです。これからどうなっていくのか想像しながら、次を待ちます。やっぱり美味しい料理は、みんなを元気にしています。
炎路を行く者 守り人作品集 ― 2023/09/10

「炎路を行く者 守り人作品集」 上橋 菜穂子・著 新潮文庫
「蒼路之旅人」、「天と地の守り人」で暗躍したタルシュ帝国の密偵、ヒュウゴ。彼は何故、祖国を滅ぼし家族を奪った国に仕えるのか。謎多きヒュウゴの少年時代を描いた話。バルサと養父・ジグロの旅。女用心棒として生きる前の少女時代を描いた話の2編。
敵ながら助け合ったり、助言をくれたり、不思議な魅力があるヒュウゴですが、謎もありました。この本を読んで生い立ちがわかりました。とても良かったです。NHKドラマでは鈴木亮平さんが演じてステキでした。タルシュ帝国と他の国の関係もより理解できました。
バルサの話は「十五の我には」というタイトルですが、その言葉で始まる詩が出てきます。その詩にとても納得できました。バルサの成長の途中が描かれていて、ジグロの人間性がうかがえます。
黒武御神火御殿 三島屋変調百物語六之続 ― 2023/09/07

「黒武御神火御殿 三島屋変調百物語六之続」 宮部 みゆき・著 角川文庫
江戸神田にある袋物屋・三島屋は、一風変わった百物語を続けている。これまでの聞き手を務めてきた主人の姪、おちかの嫁入りによって、役目は甘いもの好き次男・富次郎に引き継がれた。三島屋に持ち込まれた謎めいた半天をきっかけに語られたのは、人々を吸い寄せる怪しい屋敷の話だった。
本としてはシリーズ6冊目ですが、主人公が変わって新章がスタートしました。富次郎は大店の次男で、おぼっちゃま育ち、あまり苦労もした事がないかもしれないけど、人が良いようで、憎めない人です。家族も仲が良さそうです。これまでの関係は生きていて、また新しくスタートするというのは新鮮でした。おちかが良かったけど、まだ不慣れな富次郎が頑張っているのが、伝わってきます。タイトルは「くろたけごじんかごてん」と読みます。4つの話が入っているけど、本の半分以上が黒武御神火御殿なので、他の話は霞んでいきました。この話が恐ろしくて、不思議な話だったから、印象深いです。神隠しのように数人が迷いこんだ場所から、帰れなくなってしまう。どのようにこの人たちが、選ばれているのか、半天との関わりは何か、よく理解できないままだったところもあるけど、面白かったです。おちかもちょっと出てきました。今後の富次郎の成長が楽しみです。
旅ドロップ ― 2023/09/02

「旅ドロップ」 江國 香織・著 小学館文庫
旅にまつわるエッセイ集、海外の思い出や、国内の仕事の為の旅、家族や友人た行く旅、遠くじゃなくても、旅の気分を味わう事ができる。
主に旅の情報誌に連載されていた物のようです。1つ1つは数ページの短い文章ですが、その中に美しい言葉で味わい深い内容が描かれていました。面白かったです。
世界はフムフムで満ちている 達人観察図鑑 ― 2023/08/29

「世界はフムフムで満ちている 達人観察図鑑」金井 真紀・著 ちくま文庫
様々な職業の人にインタビューして、仕事の極意、裏話、真髄などをギュッと簡単な言葉でまとめています。どれも短い文章なので、詩のようにも見えます。わかりやすくて、タイトル通りフムフム、そうなのかと、納得しました。著者が絵も描いていて、それがまた良いです。上手いしユーモアがある一言が添えています。ゆるくかわいいイラストでした。あっという間に読み終わってしまいましたが、勉強になりました。
お探し物は図書室まで ― 2023/08/25

「お探し物は図書室まで」 青山 美智子・著 ポプラ文庫
「お探し物は、本ですか?仕事ですか?人生ですか?」悩める5人が訪れた、町の小さな図書室。無愛想だけど聞き上手な司書さんは、思いもよらない本をセレクトし、可愛い付録を付けてくれます。果たして自分が本当に探している物とは……。
とても面白かったです。何かを探している様々な立場な人々。司書さんは、一見関係なさそうな本を薦めてきます。一応、借りて読んでみたら明日への希望が満ちてきます。ここに出てくる人々と同じような悩みを経験しているわけではないけど、読んでいると共感して、わかるわかると思えました。思い悩んで、たまたま図書室へ行くと、素敵な出会いがあります。羊毛フェルト、表紙の写真にもなっているけど、可愛いです。
短編連作ですが、他の話に出てきた人がちょこっとまた出てくるのが良いです。司書さんや、図書室で働いて、司書を目指す若い女の子は毎話に出てきますが、この2人の事をもっと詳しく知りたいです。過去の関係は少しだけ語られてはいますが。全体的に読みやすくて、どれも心が軽やかになるような話でした。
流れ行く者 守り人短編集 ― 2023/08/22

「流れ行く者 守り人短編集」 上橋 菜穂子・著 新潮文庫
王の陰謀に巻き込まれ父を殺された少女バルサ。親友の娘である彼女を託され、用心棒に身をやつしたジグロ。故郷を捨て追ってから逃れ、二人の生活を描く短編集。まだ幼いバルサとタンダの話や、旅で出会う人たち、多くの経験からバルサの成長していきます。
シリーズの中の、知らなかった部分を知り、より世界観が伝わりました。面白かったです。
活版印刷三日月堂 小さな折り紙 ― 2023/08/11

「活版印刷三日月堂 小さな折り紙」 ほしお さなえ・著 ポプラ文庫
小さな活版印刷所「三日月堂」。店主の弓子は活字を拾い刷り上げるのは、誰かの忘れていた記憶、言えなかった言葉。
三日月堂は軌道に乗り始めた、三日月堂に出入りして、デザインの仕事をしている金子は愛を育み、アルバイトに来ている楓は進路を考える、川越で働くジョギング仲間たちは、旅行に出かける。弓子たちのその後は……。
大事件は起きないけど、それぞれの生活ぶりが伺えます。変化があったり、悩みを抱えていたり、活版印刷の良さを紹介しながら、川越の街のご近所づきあいも良かったです。三日月堂のその後もわかりました。
わが殿 下 ― 2023/08/03

「わが殿 下」 畠中 恵・著 文春文庫
新銅山の開堀、面扶持の断行、藩校の開設、大型船のぞうせ、七郎右衛門は、幾度も窮地に陥りながら、“わが殿”利忠の期待に応え続ける。だが、家柄もないのに殿の信頼を集める七郎右衛門に、悪意が向けられ……。
黒船が襲来、日本が激変していく時代、小さな藩が奮闘して、借金を返し、利益を生み出すまでになっていく。七郎右衛門は、打出の小槌と言われ、殿や藩の為に、忙しく働いた人でした。この話は実在の人物をベースにしている歴史小説、すごい人です。殿との関係も良かったです。兄弟仲も良くて、皆で助けあっていました。何もできないクセに、古い考えに凝り固まっている人たちに、主人公が言う言葉が、素晴らしいです。時代は変わり続け、今まで通りでは行かなくなる、自分たちも対応して行かないとならないと思います。現代でも通じる事があり、反省させられます。
最近のコメント