紙屋ふじさき記念館 春霞の小箱 ― 2025/02/10

「紙屋ふじさき記念館 春霞の小箱」 ほしお さなえ 角川文庫
紙屋ふじさき記念館の閉館まであと半年と少し。夏休みのサークル遠足で、紙の産地・東秩父と小川町を訪れたり、正月の楮かしきに参加したりするうちに、百花は作家だった父が民藝運動に関心を持っていたと知る。記念館の閉館イベントやワークショップの準備に忙しい百花だが、予想外の事態が発生したする。
シリーズ5作目。大学のサークルのメンバーが増えて、先輩や新入生など、どんどん登場人物が出てくるので、覚えきれなくなっています。和紙に関係して、新しい出会いもあって、一時的にではなく、継続して関わってくるので、こちらも広がっていきます。紙屋ふじさき記念館の入っているビルが取り壊しが決まっていて、記念館が今後どうなるのかと、続きも気になります。百花は紙の事を勉強し、大学卒業後も、記念館や和紙に関する仕事を続けたいと強く思うようになっていきます。さて、どの様な展開になるのか、次が楽しみです。
推し、燃ゆ ― 2025/02/07

「推し、燃ゆ」 宇佐見 りん 河出文庫
「推しが燃えた。ファンを殴ったらしい」。高校生のあかりは、アイドル上野真幸を解釈することに心血を注ぎ、学校も家族もバイトもうまくいかない毎日をなんとか生きている。そんなある日、推しが炎上し……。
芥川賞受賞作。“推し”と言う言葉を皆が使うようになって、今では普通の日本語になっています。推しがいる事で毎日にハリができて、頑張る理由にもなっています。生活の中心が推しとなるような経験がないので、この主人公のような気持ちはわからないけど、いかにも現代を表す題材だと思うし、勉強になりました。でも、何もかもうまくいかないけど、推しのコンサートや、グッズを買うためには、アルバイトを頑張らないとならないし、推しは炎上するし、読んでいても、辛かったです。
赤と青とエスキース ― 2025/01/30

「赤と青とエスキース」 青山 美智子 PHP文芸文庫
メルボルンに留学中の女子大生レイは、現地に住む日系人のブーと恋に落ちる。彼らはレイが日本戻る時までの「期間限定の恋人」としてつきあい始める。額縁工房に勤める空知は、仕事を淡々とこなす毎日に迷いを感じていた。そんな時「エスキース」と言うタイトルの絵に出会う。
1枚の絵画をめぐる、5つの物語。
一見、別々の話の様ですが、読み進むうちに、繋がりが見えてきました。更に、同じ作者の違う話とも繋がっている気もします。凝った構成でした。エスキースと言うのは絵のタイトルですが「下絵」と言う意味です。
とある若手画家の描いた絵「エスキース」が、どの話にも登場し、大切な意味がありました。思ったよりも長い月日がたっていたりしました。面白かったです。
紙屋ふじさき記念館 故郷の色 海の色 ― 2025/01/26

「紙屋ふじさき記念館 故郷の色 海の色」 ほしお さなえ 角川文庫
新入生オリエンテーションで大忙しだった小冊子研究会へ、ひとりの学生が訪ねてくる。百花が作った「物語ペーパー」を見たという。彼女と活版印刷の話で盛りあがり、研究会の新歓遠足で川越の印刷所の見学に行く事になる。一方、ふじさき記念館が入るビルの取り壊しが正式に決定し、存続が揺らぎ始める。
同じ作者の「活版印刷三日月堂」と話がリンクしていて、三日月堂でアルバイトしている天野さんが、百花と同じ大学に入ってきて、百花の所属する小冊子研究会にやってきたことがきっかけで、川越の三日月堂を訪ねる事になります。仕事も依頼するかもしれないと言っていました。天野さんも、これからも出てくるのかも。ふじさき記念館の仕事に関わる事で、工房見学に行ったり、サイトを作ったり、百花は記念館の為に、大忙しでした。アルバイトの域を超えているけど、本人がやる気に満ちていました。今回は藤崎さんのご両親も出てきました。百花は大学3年生になったので、今後は卒論や就活なども出てくるのでしょう。まだこれから、変化がありそうです。
風のマジム ― 2025/01/24

「風のマジム」 原田 マハ 講談社文庫
伊庭まじむは、通信会社アイコムの派遣社員として働く28歳、自分が何をすべきか判らず漠然と日々を送っていた。彼女の運命を変えたのは社内ベンチャー募集の告知。まじむは郷土沖縄のさとうきびでラム酒を造るという事業を提案する。困難にぶつかりながらも、情熱を持って取り組んでいくと、周囲の人を巻き込んで、助けられて、夢に向かっていく。
沖縄の言葉を交えて、ほっこりと温かい話でした。特におばあが、厳しくも、的確な叱咤をして、まじむを揺り動かしていきます。沖縄の素晴らしい資源を生かし、自信を持ったものを造りだしたい。自分もそれを飲みたいし、他の人にも飲ませたい。さとうきびの畑の上を吹き渡る風を感じる良い本でした。お酒が苦手な人でもラム酒が飲みたくなるでしょう。驚いたことに、作者の原田マハさん自身は下戸とあとがきに書いておられました。美味しそうにお酒を飲むシーンが多いから、意外でした。
紙屋ふじさき記念館 カラーインクと万年筆 ― 2025/01/16

「紙屋ふじさき記念館 カラーインクと万年筆」 ほしお さなえ 角川文庫
ふじさき記念館にインクメーカーとガラスペン作家の相談が持ち込まれる。館長の一成から協力を頼まれた百花はインクとガラスペンにすっかり魅了される。商品のネーミングに悩んでいると、母から作家だった父の遺品の万年筆を渡される。自分の名前の由来を思い出し、商品名のヒントを思いつく。
前半は百花の祖母の住む長野県で、水引作りをしたり、記念館でワークショップをしたり、次々と変化があります。前作からの話も続いていて、協力して作ったコラボ作品も好評だし、またその繋がりから他の話が持ち込まれます。SNSも活用し、記念館も良くなっているのが伝わってきます。百花はガラスペンやカラーインクの事はあまり知らなかったようですが、研究を兼ねて、大学の友達にお店を教えてもらうと、すっかり気に入っていた様子が、共感できました。紙を好きな人は、万年筆も好きな人も多いですね。インクも今はたくさんできているので、カラフルなインクを使ってみたくなります。
紙屋ふじさき記念館 物語ペーパー ― 2025/01/09

「紙屋ふじさき記念館 物語ペーパー」 ほしお さなえ 角川文庫
大手企業「藤崎産業」の記念館でバイトをする百花は、前社長夫人の薫子に気に入られ夕食に誘われる。孫で館長の一成が幼い頃から薫子に育てられ紙への愛情が深くなったことを知る。ある日、彫金デザイナーの雫を伴い本社営業課長の浩介が記念館に現れる。彼は社長の息子で、いとこの一成を敵視し、記念館不要論を唱えていた。百花が雫に和紙を使ったアイディアを提案したことで、事態は思わぬ方向へ。
シリーズ第2弾。面白くてあっという間に読めました。和紙づくりの体験をしたり、大学の学園祭、百花の家族の話など、いろいろ盛りだくさんでした。日本橋も魅力的に描かれています。表情に乏しい一成も、実は優しい人だと知る事ができるし、百花も和紙へ興味や愛情を感じてきて、記念館の改革を少しずつ進めています。百花の努力で一成も積極的になってきました。紙や本が好きな人には良いと思います。
きつねのはなし ― 2025/01/07

「きつねのはなし」 森見 登美彦 新潮文庫
「知り合いから妙なケモノをもらってね」籠の中で何かが身じろぎする気配がした。古道具屋の主から風呂敷包みを託された青年が訪れた、奇妙な屋敷。彼はそこで頼み事をされる。他、短編作品集だが、話に関わりがある。
森見登美彦の作品は読んだことがあったっけ。「有頂天家族」や「ペンギン・ハイウェイ」「恋文の技術」などを読んだっけ。アニメで原作になっているのも観たから、知ってはいるように思っています。この作品は京都を舞台に、謎に満ちた話でした。特に表題作の「きつねのはなし」に引き込まれました。でも謎は謎のまま、何が起こっているのかは、わからないままです。でもミステリアスな雰囲気が良かったです。でも、読み進むと疑問が増えてきて、すっきりしないところがあり、読むのに時間がかかってしまいました。
2024年本ベスト10 ― 2025/01/01
紙屋ふじさき記念館 麻の葉カード ― 2024/12/27

「紙屋ふじさき記念館 麻の葉カード」 ほしお さなえ 角川文庫
大学生の百花は叔母に誘われて行った「紙こもの市」で紙の世界に魅了される。会場で紹介されたイケメンだが仏頂面の一成が、大手企業の一族で記念館の館長と知る。苦手な人だが、百花が作ったカードなど気に入られ、更に一成の祖母にも誘われて、記念館でバイトすることになる。素っ気ない態度の一成だったが、和紙に詳しくて、デザインの仕事で才能を発揮している姿を見たり、一緒に仕事をしていくうちに関係がかわっていく。
紙こもの市というのが、紙博や文具女子博を思わせます。百花はもともと紙が大好きで、自分で小物などを作っています。それが一成の目に触れ、紙こもの博に出すものを作って、それ販売を手伝うのが、始まりでした。閑古鳥が鳴いている記念館も、百花のアイデアを取り入れて、変わっていきそうです。シリーズの1冊目だから、これから進展がありそうで楽しみです。記念館があるのは、日本橋のようで、界隈の様子がいろいろ出てきました。
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