契り橋 あきない世傳金と銀 特別巻上2024/07/24



「契り橋 あきない世傳金と銀 特別巻上」髙田 郁 ハルキ文庫
シリーズを彩った登場人物のうち、4人にスポットをあてた短編集。五十鈴屋を出奔した惣次が、井筒屋三代目保春となった経緯。生真面目な佐助の、恋の今昔。小頭役として店主をサポートしてきたお竹が、老いを感じ、どう生きるか悩む話。賢輔の長きに亘る秘めた想いの行方は。など。
どれも、面白かったです。本シリーズでは明らかになっていなかった事や、その後の事がわかりました。登場人物が多いから、他にも気になる人もいるけど、下巻もあるので、楽しみです。シリーズが終わって少したっていたので、五十鈴屋の皆さんと再会できたような喜びでした。

大名倒産 上2024/07/21



「大名倒産 上」 浅田 次郎 文春文庫
天下泰平260年の間に積もり積もった借金。あまりの巨額に嫡男はショック死。松平家12代当主は、庶子の四男・小四郎に家督を譲ると、ひそかに「倒産」の準備を進め、逃げ切りを狙う。そうとは知らぬ小四郎。クソがつくほど真面目さ、誠実さを武器に、最大の難関・参勤行列の費用をひねり出そうとするが……。
正室の子どもではないので、家来の子どもとして、幸せに暮らしていたのに、急に家督を譲られ、内実はお金がなく、苦労する小四郎。幼なじみ2人に助けてもらいながらも、苦労が耐えない。彼らの知らぬところでは貧乏神も登場し、狙われていました。割とコメディタッチですが、誰が誰かわからなくなってしまいがちでした。小四郎の本当のお父さんは、自分の子どもに対して愛情がないです。私腹を肥やして、子ども事はどうでもよいなんて。下巻ではどうなるのでしょう。

あの頃ぼくらはアホでした2024/07/06



「あの頃ぼくらはアホでした」 東野 圭吾 集英社文庫
ワルの巣窟、悪名とどろくオソロシイ学校で学級委員をやっていた“命がけ”の中学生時代。熱血高校時代、体育系、似非理系だった大学時代。怪獣やブルース・リーに夢中になった小学時代も。著者の半生、青春を綴ったエッセイ。ドキュメンタリー?
あまりよくチェックしてなくて、小説かと思って読んでいたら、クラスメイトの名前などが、イニシャルと漢字が混ざった表現で、ヘンだなぁと思ったら、東野圭吾の実話でした。小説以外は読んだ事なかったです。どこにでもいる少年だと思うけど、リアルで面白かったです。全然偽っていなくて、カッコつけてない内容でした。当時の流行を追ったり、時にはズルい事も考え、右往左往しながら、学生時代を過ごしていきます。浪人時代や就職活動なども、大阪弁の会話、昭和の光景が満載でした。

傍聞き2024/07/03



「傍聞き」長岡 弘樹 双葉文庫
患者の搬送を避ける救急隊員の真意とは「迷走」。娘の不可解な行動に悩む女性刑事「傍聞き」。元受刑者の揺れる気持ちを描いた「迷い箱」。短い話ばかりなのに、どれも予想を超える展開がある短編集です。タイトル傍聞きは「かたえぎき」と読むそうです。かたわらにいて、人の会話を聞くともなしに聞くこと。漏れ聞いた言葉の方が、信じやすいと言う事ありますよね。直接褒められるより、他の人からあなたの事を褒めていたよと言われた方が、そうなのかと嬉しく思ったりします。反対に、詐欺でも使われるように思います。すごい占い師に特別に占ってもらえると言われても、その気にならないけど、全く関係ない人がどうしてもその占い師に占ってもらいたいと言っているのを聞いたら、ならばわたしもとなってしまうかもしれないです。SNSでみんなが欲しいと言っていると、自分も欲しくなってしまうのも同じ心理かもしれません。話がそれましたが、あえて「傍聞き」を利用する話でした。どれもちょっとしたミステリーでした。面白かったです。

手のひらの音符2024/06/27



「手のひらの音符」 藤岡 陽子 新潮文庫
デザイナーの水樹は、自社が服飾業から撤退することを知らされる。45歳独身、何より仕事に打ち込んできた。そんなある日、中高の同級生の憲吾から、恩師の病気を知らされる。お見舞いのため、帰省すると、今は連絡が取れなくなってしまった幼馴染との思い出が甦ってくる。
仕事や人生に迷いながらも、ずっと彼の事が心にあった……。
過去と現在が交差する、小さい頃、近所に住む三兄弟。こだわりが強く、言い出したらきかない末っ子、兄弟で助け合って、水樹も協力したり、家族のように仲良くしていた。とりわけ次男の信也には助けられていたこと。思いあっていたのに、家族ごと音信不通になって、何年も経ってしまった。服飾の道に進む事を後押ししてくれた恩師。明るくふるまいながらも、悩みを抱えていた憲吾。それぞれの物語があって良かったです。人生はままならないものだけど、それでも前を向いて、進んでいく。苦しい時に、いつも味方になってくれた人がいた事が、生きる力になっていると感じました。

夢見通りの人々2024/06/18



「夢見通りの人々」 宮本 輝 新潮文庫 
夢見通りの住民たちは、ひと癖もふた癖もある。ホモと噂されているカメラ屋の主人。美男のバーテンしか雇わないスナックのママ。詩人志望の春太と彼が思いを寄せる美容師の光子、彼らの情熱、孤独など、オムニバス連作。
ちょっと古めかしかったです。夢見通り商店街の人々のいろいろな話。関わりもあります。特に中心になるのは、春太だけど、人が良く優しい人。でも地味でパッとしなさそう。彼はサラリーマンだけど、休業中のかまぼこ屋さんに、間借りしています。詩集を出したいと思う一番夢見がちな人かもしれません。癖の強い人々がいろいろな問題を引き起こして、春太が巻き込まれて行ってました。あまり明るい話はなくて、哀愁漂う雰囲気でした。

ヤクザに学ぶ交渉術2024/06/12



「ヤクザに学ぶ交渉術」 山平 重樹 幻冬舎アウトロー文庫
ヤクザにとって交渉は命をかけたもうひとつの抗争。絶対的不利な状況から大逆転を図り、黒を白と言いくるめる様々なテクニック。理論武装、因縁、難クセ、いろいろある。ヤクザ社会に精通した著者の実用的エッセイ。
これを読んだら、ヤクザの技術で上手く交渉できるかどうか、何とも言えませんが、実在の人物が行った実例を紹介しています。一般の方が使えるわけではないです。時代もかなり前の事でした。どこかで役に立ったら良いですが、自信はないです。心構えが大切かもしれません。交渉がうまくいかなかった場合は、組同士の抗争に発展することも。まぁ普通の人とは関係ないですが、参考になるところもありました。

金色の野辺に唄う2024/06/05



「金色の野辺に唄う」あさの あつこ 小学館文庫 
稲穂が金色に輝き、風に揺れてシャラシャラと唄を奏でる山陰の秋。92歳の松恵は、息を引き取ろうとしていた。多くの人の心を受け止め救った大おばあちゃん。娘の奈緒子、曾孫の東真、花屋の店員など、それぞれにままならない悩みを抱えている。松恵を中心にその近辺の人、いろいろな立場の人たちが描かれる。 
世代が違うが、小さい頃の事も語られて、多くの人の人生が見えてきまました。なかなか面白かったです。はじめ曾孫の東真は、女性と思い込んでいましたが、男の子でした。絵が好きで、子どもの時に描いた柿の絵は、ずっと額に入れて飾られていました。大おばあちゃんはとても気に入っていたそうです。文章で読んでいるだけなので、どんな絵かはわかりにくいものの、興味をひかれました。東真の彼女は、迫力ある絵を描いているようで、見てみたいです。
家族の話だけかと思ったら、花屋の店員は違いましたが、これで良いのかと思われますが、1番強烈な話でした。他は家族の家系図を頭に思い浮かべ、これは誰だったかなとちょっと混乱しました。四世代くらいだけど、兄弟や再婚相手とか、血のつながりがない人も出てきて、広がっていきました。

秋霜2024/06/01



「秋霜」 葉室 麟 祥伝社文庫
一揆から三年、豊後羽根藩の欅屋敷で孤児を見守る女・楓の許に、謎の男・草薙小平太が訪れる。彼には楓の元夫で、大功を挙げた後、藩主の旧悪を難じ上意討ちに遭った前家老と因縁があった。幕府の巡見使がやって来る事になり、藩が隠蔽した旧悪を知る楓たちに魔の手が……。
葉室麟の羽根藩シリーズ全五巻のうち「蜩の記」「潮鳴り」を読んでいたけど1冊飛んで、この4冊目を読みました。とても良かったです。でもこの本と関わりが深い3冊目の「春雷」を読んだ方がよりわかりやすいように思いました。楓の元夫の事がわかる話だったようです。それでもこの本だけでも面白いです。元藩主から疎まれている楓たちは、常に狙われているのだけど、欅屋敷に暮らす人たちは、楓をはじめ皆、高潔です。その影響を受け、考えを改める人もいます。人を想う心が、人を動かしていくのに、感動しました。

胸の香り2024/05/27



「胸の香り」 宮本 輝 文春文庫
入院中の病院で、母は遠い昔のなつかしい匂いを感じた。花の香りだろうか、それともパンの匂い?いや、あれは忘れえぬあの人の香りだ。
七篇の短編集。短い話ばかりだけど、長い物語を読んだような気分になります。全部ではないですが、不倫の話が多かったです。過去を思い返す話もあるのですが、それが昭和のまだ貧しい時代で、今とはかなり違います。短いので人生の一部分しか描かれていないですが、濃密な時間です。ちょっと複雑でわかりにくいと思うのもありました。