花嫁はどこへ?2024/11/03



「花嫁はどこへ?」 新宿ピカデリー
2001年、とあるインドの村。プールとジャヤ、結婚式を終えた2人の花嫁は、同じ満員電車で花婿の家に向かっていた。同じ赤いベールで顔が隠れていたことから、プールの夫ディーパクが、勘違いしてジャヤを連れ帰ってしまう。置き去りとなってしまったプールは内気で従順、ディーパクに頼りきりだったので、彼の住所もわからない。駅にいた人に助けられ、売店の女主人を手伝うことに。ジャヤの方はディーパクの家で泊めてもらい、謎の行動をしている。
インドは広いから、住所がわからないと、一生そのままになってしまうのではと、心配しました。手を差し伸べてくれる人がいなければ、浮浪者になってしまうかも。駅員さんに相談しても、実家に連絡するのは、拒否。インドならではの価値観がうかがえます。勉強したり、社会進出する女性は、インドでは、少ないし、女性の大変さが伝わってきます。プールも、新しい価値観を手に入れたのではないでしょうか。ジャヤの真意はなかなか明かされず、どうしてディーパクに付いてきたのか、何をしようとしているのか、ミステリアスでした。知的で美しい女性でした。プールは可愛らしいタイプ、とくに声が可憐でした。駅の売店の女主人は、厳しくあたられるけど、本当は情に熱くて、数日一緒にいただけなのに、家族のようでした。ディーパクの友達たちも、一生懸命協力し、多くの人に助けられて、良い結末に向かって行ったと思います。インド映画に多いミュージカル調なところはなくて、約2時間でした。面白かったです。

★★★★☆ 4+

最後の乗客2024/10/30



「最後の乗客」 ユーロスペース
タクシードライバーの間で、深夜、人気のない歩道に立ちずさむ若い女性の噂話が囁かれていた。いつも通りタクシーのハンドルを握る遠藤(冨家ノリマサ)は、閑散とした通りで、1人の女性を乗せる。走り出すや、路上に飛び出して来たのは小さな女の子と母親。どうしても乗せて欲しいと言い、同乗させると、行き先は両者とも「浜町」。奇妙な客と秘密を乗せたタクシーは、目的地へ向かうが……。
上映時間55分の短い映画です。でも、そんなに短くも感じなかったです。あの日に、どうなったのか、詳しい事は語られないけど、多くの人の平穏な日常が断ち切られてしまったのだと思います。特にエンドロールは、それを感じさせます。どの様な仕掛けがあるのか、ミスリードしやすい作りで、そういう事だったのかと、驚きがありました。タクシードライバー役は「侍タイムスリッパー」にも出ていた冨家ノリマサさん、ご活躍ですね。

★★★★☆ 4

2度目のはなればなれ2024/10/22



「2度目のはなればなれ」 TOHOシネマズシャンテ
2014年夏。イギリス・ブライトンの老人ホームで、寄り添って暮らす老夫婦バーナード(マイケル・ケイン)とレネ(グレンダ・ジャクソン)。バーナードは、ある目的のため、ひとりで老人ホームを抜け出し、フランスのノルマンディーへ旅立つ。ホームのスタッフは、警察にも連絡し、大騒ぎになるが。妻のレネは、彼を信じて待っている。
名優マイケル・ケインの引退作と言うので、観に行ってきました。仲の良い夫婦で微笑ましいです。奥さんはきっぷが良いです。心配するスタッフを横目に、マイペースです。でも身体の調子は思わしくない様子です。バーナードは、Dデイの70年式典に行こうとしています。ノルマンディー上陸作戦の場にいたのです。戦争や奥さんと出会った頃の若い時代と、現代が交錯して、進んでいきました。もっとほのぼのした映画かと思ったら、意外と反戦を訴える映画かも。70年たっても、去来する想い、忘れられない戦争体験を描いています。そして実話がベースになっていました。海の風景がきれいでした。でも主人公が思うのは、70年前のあの日のことなんですね。フランスへ向かうロードムービーになっていました。暗いわけではなく、ウィットに富んだご夫婦で、楽しさもありました。

★★★★☆ 4

BISHU 世界でいちばん優しい服2024/10/18



「BISHU 世界でいちばん優しい服」TOHOシネマズ日比谷
高校生の史織(服部樹咲)は目覚まし時計代わりの軽快な機織りの音で目を覚ます。配膳の配置や、歩き出しの順番など、こだわりが強く、苦手な事が多い。ある日、史織の描いたデザイン画を、親友の真理子が校内のデザインコンクールにエントリーする。更に、真理子の提案で、一宮市のファッションショーに出品することに。ファッションの仕事で、挫折して帰郷してきた姉は、複雑な思いを抱きながら、協力をするようになる。父(吉田栄作)は史織が傷つくのを心配して、大反対するが、史織は服作りや、ファッションショーへの挑戦を願うようになる。
タイトルは織物の生産地である尾州からきているようです。発達障害と思える主人公は、毎日のルーチンが大切で、急な変更に対応するのが、難しいです。それでも、家業である機織りや、地元の名産を守りたいと強い思いがあります。周囲の人に助けられながらも、挑戦する事で成長していきます。良い話で、ちょっと泣けたりもしたのですが、なんか少女マンガみたいなストーリーでした。期待を裏切らないように話は進みました。細やかさは、物足りないような気もしました。有名デザイナーの行動が唐突だったり、親友との諍いの後の仲直りが、おざなりで無理やり話が進んで行ったように思えました。

★★★☆☆ 3+

画家ボナール ピエールとマルト2024/10/15



「画家ボナール ピエールとマルト」 シネスイッチ銀座
20世紀絵画の巨匠のひとり、ナビ派の代表格であるピエール・ボナール(ヴァンサン・マケーニュ)。生涯の伴侶となるマルト(セシル・ドゥ・フランス)が絵のモデルとなった事で出会う。ピエールはマルトの事を愛しているのにもかかわらず、他の女性にも、心惹かれてしまう。破天荒な愛を営みながら、創作活動を続けていく。
女性から見たら、身勝手なピエール・ボナールです。心のままに正直なんでしょうけど、愛憎劇という感じがしました。明るくて優しい色合いの絵を描くボナールが、こういう人だったのかと、驚きました。マルトも、愛人も嫉妬に苦しむし、もうちょっと上手くやったら良いのにとも、思ってしまう。それでもセーヌ川が流れている田舎の家に住み、そこでの生活が楽しそうです。まさに絵画のように美しい風景です。モネやエドゥアール・ヴィヤールなども出てきて関係性が伺えます。ピエール・ボナールは日本美術に影響を受けていた事は有名で、ジャポナールと呼ばれていたというし、描かれている女性の多くはマルトなのかと思うと改めて絵を見てみたいと思いました。
後でボナールの写真を調べたら、ヴァンサン・マケーニュかなり似させています。もっと情けない風采の役が多いから、いつもと違う感じでした。

★★★★☆ 4

憐れみの3章2024/10/14



「憐れみの3章」 TOHOシネマズ錦糸町オリナス
愛と支配をめぐる3つの物語。選択肢を奪われながらも、自分の人生を取り戻そうと粉糖する男。海難事故から生還した妻が、姿は妻だが、別人になっていると疑う警察官。特別な人間を探すため、夫や娘とも離れて生活する女性。
どの話も、奇想天外で、不穏な話でした。どれもゾワゾワ、ザワザワするような話。特に2つ目の話が怖かったです。2時間44分と長めなんだけど、不可思議な世界に引き込まれていって、あまり長く感じませんでした。説明はないから、いったいどういう事だろうと考えながら、見終わっても、わからないままが多いです。3つの話には、繰り返し同じ人が出てきます。でも役柄は違っているので、ヘンな感じがします。なんだか劇団の公演の様に、今回は別の役を演じているんだと、違う公演を続けて見ている気分です。職業も違うし、性格も違います。私には難解ではありましたが、面白かったです。でも思い返して見ると、ヨルゴス・ランティモス監督作品は、「ロブスター」が好きだったかも。

★★★★☆ 4

ぼくが生きてる、ふたつの世界2024/10/02



「ぼくが生きてる、ふたつの世界」 船堀シネパル
宮城県の小さな港町。耳の聴こえない両親のもとで育った五十嵐大(吉沢亮)。幼い頃から母(忍足亜希子)の通訳をする事があたりまえだった。しかし、思春期になると、周りからの目が気になり、戸惑いや苛立ち、母の事が疎ましく感じ、東京で働き始める……。
聴覚障害の両親から生まれた聞こえる子ども、コーダの話でした。そうでなくても、親に反発して、家を出て行く子どもは多いし、離れてみてわかる親の愛なんかありますよね。でも、この映画は描き方が良かったです。親の気持ちも、息子の気持ちも、痛いほど伝わってきました。手話の事も、勉強になります。外国と日本の手話が違うのは、知っているけど、日本の中でも地域性があるのかと思いました。方言ってほどではないけど、東京では違うというのがあって、驚きました。主人公の両親は聴こえないけど、同居している祖父母は健常者。演じるでんでんと烏丸せつこが、なんとも破天荒な夫婦でした。吉沢亮は中学生から演じますが、子役が何人か出てきます。似た雰囲気の子ばかりで、違和感なかったです。原作は五十嵐大さんのエッセイ。実話ベースなんですね。映画「コーダ」を思い出すけど、もっと日本的だから、感情移入しやすいです。

★★★★☆ 4+

本日公休2024/09/27



「本日公休」 シネスイッチ銀座
台中にある昔ながらの理髪店。女手ひとつで育て上げた子ども達も既に独立。店主アールイ(ルー・シャオフェン)は、常連客を相手にハサミの音を響かせる。夢枕に立った亡き妻に言われたと白髪染めにやって来た老人、流行りのヘアスタイルにしたい思春期の少年など。ある日、離れた町から通ってくれていた常連客の“先生”が、病の床に伏したことを知ったアールイは、店に「本日公休」の札を掲げて、散髪の為にその町に向かう。
台湾映画。フー・ティエンユー監督が、自身の母親をモデルに書き上げたシナリオだそうです。ロケ地も監督の実家の理髪店。古き良き時代の素敵なお店でした。子どもたちを想う母、好きなように生きたい若い世代。子どもは3人で息子1人、娘2人。美容師の娘は離婚しているが、元夫が、何かとアールイさんを気遣ってくれています。遠い町へ車で出かける事になると、ちょっとだけロードムービー風になりました。理髪の技が、アールイを助けます。常に真面目に丁寧に仕事をしてきた事が伝わります。時間はあっという間に過ぎるものよ、みたいな事を何度か言いますが、若い人には実感がないかもしれないけど、ある程度の年齢になると、そうだなぁと感じます。すごい大事件は起きないけど、心温まるしみじみとした映画でした。

★★★★☆ 4+

侍タイムスリッパー2024/09/22



「侍タイムスリッパー」 TOHOシネマズ日比谷
幕末の京都、会津藩士の高坂新左衛門(山口馬木也)は、長州藩士を討つため、刀を交えた瞬間、落雷が!気がついたらら、現代の時代劇撮影所にいた。わけもわからないまま、先々で騒動をお越しながら、人情味ある人たちに助けられる。江戸幕府が140年前に滅んだ事を知り、愕然とする。やがて彼は磨き上げた剣の腕を頼りに、斬られ役として撮影に参加するようなる……。
初めは都内では1館で公開していた映画が、口コミで人気を博していき、拡大公開になったのは、「カメラを止めるな!」の様なムーブメント。期待して見に行ったが、期待に違わず面白かったです。周囲の人は本物の侍とは思わずに、普段からちょんまげを結って、熱心に役作りをしているエキストラの人と思っていたりして、そんなに大ごとにならずに、受け入れられていました。記憶喪失の人と信じてる住職夫婦には、家に住まわせてもらって、大事に扱ってもらいます。カルチャーギャップに笑いが漏れるし、武士の矜持に苦しむ事もあります。近頃は廃れつつある時代劇にも、スポットが当てていて、話もよくできていました。侍が現代にタイムスリップして、斬られ役になるだけではない、展開でした。主人公の会津なまりの武士らしい言葉遣いが良かったです。

★★★★☆ 4+

ぼくのお日さま2024/09/16



「ぼくのお日さま」TOHOシネマズシャンテ
雪の降る田舎町。ホッケーが苦手な吃音の少年タクヤ(越山敬達)は、フィギュアスケート練習中の少女さくら(中西希亜良)に心奪われる。自分でもホッケー靴のまま、フィギュアスケートの真似をして、何度も転んでいる。それを見ていたフィギュアコーチの荒川(池松壮亮)は、フィギュア用のスケート靴を貸して練習につきあうようになる。やがて荒川の提案で、タクヤとさくらはペアでアイスダンスの練習を始める事になる。タクヤはまだ拙かったが、何度も練習し、なんとか揃って北野だが……。
ひと冬の話で、多分北海道だと思いますが、とても美しい雪景色でした。映像美の連続です。柔らかい光に包まれたスケート場で滑る2人、室外の自然の中のスケートリンクに行くのも、良かったです。みんなが楽しそうで、一番盛り上がったところかな。ひたむきな少年と少女、それを見守るコーチ、楽しいだけではなく、喜びと苦味がありました。さくらは顔も美しいけど、スケートの動きがきれいでレベル高いです。タクヤと、その仲の良い友達も天使のようなピュアさ。池松壮亮と若葉竜也がまた光ります。奥山大史監督の前作「僕はイエス様が嫌い」も良かったけど、今作も気に入りました。

★★★★★ 5-