錦繍2022/06/16


錦繍

「錦繍(きんしゅう)」 宮本 輝・著 新潮文庫
「前略 蔵王のダリア園から、ドッコ沼へ登るゴンドラ・リフトの中で、まさかあなたと再会するなんて、本当に想像すら出来ないことでした」と始まり、運命的な事件ゆえ愛し合いながらも離婚した二人が、紅葉に染まる蔵王で十年の歳月を隔て再会した。そして、女は男に宛てて一通の手紙を書き綴る……。
離婚した男女の往復書簡で語られる小説です。私はあまり本を何度も読み返したりしないのですが、この本は読むのは2回目です。ずいぶん前に読んで、感動したのは覚えているのですが、内容がどういうものだったかは、霧の中でした。再度読んでみても、あまり思い出さず、新鮮な気持ちで読めました。
お互いが、孤独や後悔の中で生きてきたのだけど、手紙を往復することによって、過去が埋められたり、書くことで自分の本当の気持ちが整理できたことで、次の一歩を踏み出していくような、再生の物語でした。何と言っても印象的だったのは、冒頭の文のリズムの良いことです。映像も思い浮かんできます。そこだけはなんとなく覚えていました。冒頭だけではなく、全体的にリズムの良い文章でした。読み手にとっては、離婚した男女に、何があったのか、気持ちがどうだったのかと明らかになっていき、面白かったです。老夫婦がオーナーの素敵な喫茶店も出てきました。